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『この国の空』舞台挨拶に監督の荒井晴彦さんが登壇! 二階堂ふみさんとの撮影秘話を語る

2015年10月18日(日) レポート

10月18日(日)、よしもと祇園花月で『この国の空』が上映されました。
この映画は、芥川賞作家の高井有一による同名小説が原作。
終戦間近の東京で暮らす里子は、戦争という極限状態のなか「結婚もできないまま死んでいくのだろうか」と不安な思いを抱えます。それと同時に覚悟を決め、隣に住む妻子ある男・市毛と道ならぬ恋へ…。強くまっすぐな里子を二階堂ふみさん、里子に惹かれ渇望する情熱的な市毛を長谷川博己さんが熱演しました。一方で、戦争という時代を凄惨な戦場ではなく、庶民の淡々とした暮らしぶりから表したリアルな視点も心に染みます。

上映後、監督の荒井晴彦さんが登壇。日本を代表する脚本家である荒井さんが、今回18年ぶりに監督に挑んだ経緯を明かしました。
「信頼している監督にシナリオを読んでもらったんだけど、『すごくいいシナリオだけど、こういう映画って誰が観るの?』と言われまして、確かにそうなんですが…」と話すと詰めかけたファンの皆さんから笑いが。
映画化が決まったのは一昨年のこと。「戦後70年に向けてやろうとプロデューサーに言われて、『監督は誰にする?』と聞いたら『自分で撮ればいいじゃないですか』と言われたので『あ、そうか』と」と淡々と話す荒井監督。

司会の浅越ゴエが「では、もともと『自分で撮ろう』と思っていたわけではないんですね」と尋ねると、「原作を30年前に読んだ時から映画にしたいなとは思っていたけれど、自分で監督をするとは思っていませんでした」と明かしました。「だって本業じゃないし、うまい人はたくさんいるし…」という荒井監督に、浅越は「いや、素晴らしかったですよね?」と言うとお客さんから大きな拍手! 

浅越が「戦争映画といえば思い描くのは、爆撃とか銃撃というシーンですが…」と水を向けると、荒井監督も「この映画は人が死ぬところは出てこない。なんだか若い人がごはんばかり食べてる、みたいな」と語り、「戦争でやられたのは大都市で、戦争で亡くなった方は310万人と言われています。一方で8000万人から9000万人は生きてるわけですが、とくに若い人たちはそちらに対するイメージがないみたいです」と語ります。

浅越は「意図的に撮られているかも知れませんが、あの生活感のなかで出てくるごはんが美味しそうに見えました」と話すと「役者さんが食べるので美味しく味付けしてあると思いますが、実際はまずかったと思いますよ。もうちょっとまずそうに食べてほしかったな」と語るとお客さんから笑いが。

数々の思い出深いシーンを語るなか、浅越が「二階堂ふみさんに演技指導はされたんですか?」と尋ねると「しなかったです」と語り、「とても頭がいいですね」と称賛。「ただ、歌を唄うシーンで立ち上がってほしいと言うと、二階堂さんが『どうして立ち上がるんですか?』とうるさんだよ(笑)。まるでおじいさんと孫が会話しているみたいな感じでした」と和やかな撮影現場だったことをうかがわせます。浅越も「そのシーンの理解を深めてトライしたかったんでしょうね」と二階堂さんの聡明さを感じていました。

浅越が印象的なシーンのひとつに挙げたのがラストカット。「戦争が終わるのに、里子の顔のアップになり、字幕で『これから私の戦争が始まる』と。あのシーンにはどんな意図が?」と荒井監督に質問。「市毛は戦争が終わって喜んでいるけれど、里子からすれば、2人は『本土決戦でアメリカが来たら死ぬんだから』と、死ぬ覚悟で始まった関係。なのに突然戦争が終わってしまう。そうすれば疎開していた市毛の奥さんと子供も帰ってくるわけで。戦争が終わってよかったじゃなくて、よくない、という」と里子の心の機微に触れつつ、「軍人なら終戦を喜んだだろうけど、普通の人でそう思うのは珍しいんじゃないかな。

地上戦を経験していない日本人の中には、戦争を地震や台風みたいな天災のように考えるところがあったから、『嵐が去ってよかった』みたいな。あまり『なぜ戦争が始まったか』、『誰が悪いのか』までは考えていないと思うんです」と語ります。「直接的には、市毛の奥さんと子供が帰ってくるということで、その後ろに続く、次の日から始まる日本の戦後を睨んでいる。それぞれの70年を考えてもらえたら」と荒井監督。浅越も「里子はあのあと、どうなるんでしょうねぇ」と思いを馳せていました。

「戦後70年にぶつけたという感じではなく、30年間やりたくて、戦後70年だから成立した映画」とも。「戦争と戦後は、8月15日を境に1日で軍国主義の国から民主主義の国になったと言われますが、そんなわけないだろうということをやりたかった」と語りました。