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松江哲明監督、森達也監督が俳優・山田孝之の魅力を語った『もうひとつの「山田孝之の東京都北区赤羽」4時間35分ver.』トークイベント

2015年10月16日(金) レポート

10月16日(金)、立誠シネマプロジェクトにて、『もうひとつの「山田孝之の東京都北区赤羽」4時間35分ver.』のトークイベントが行われ、本作監督の松江哲明さん、そしてゲストトしてドキュメンタリー監督・森達也さんが登壇しました。

本作は、2015年1月〜3月にテレビ東京系で放送された異色ドラマの未公開シーンを含めた完全版。演技と現実の境界線を見失って苦悩する人気俳優・山田孝之さんが、清野とおるさんの漫画「東京都北区赤羽」に影響を受け、実際に赤羽に引っ越し。

漫画の中にも登場する赤羽の個性的な住人たちと実際に交流しながら、役者としての自分ともう一度向き合う姿を、フェイク(フィクション)の表現を交えて映しだしています。

今回、山下敦弘さんと共同監督を務めた松江さんは、「以前、山下君と『谷村美月17歳、京都着。〜恋が色づくその前に〜』という関西だけで放送されたドラマを手がけたのです。『女優だから本当の自分を出すのが怖い』と言う谷村さんが、自分自身を演じるという設定だったのですが、そのうち素が出てくる。

そのときの彼女の戸惑いがとても面白かった。『俳優って面白いよね』というあの感じを、もう一度やろうと思いました」と、『山田孝之の東京都北区赤羽』が生まれた背景を説明しました。

そこで今回も、真実と虚偽を混在させたフェイクドキュメンタリーの手法で製作。
森監督は、「こういうフェイクドキュメンタリーは大事なジャンル。メディアが多様化している中で、あらゆる情報は、真偽が入り交じっているんです。でも日常生活でも、例えば親と恋人の前では(態度が)違うし、それが本当か嘘かは分からない。そもそも人は誰もが演技を必ずしているのだから」と指摘。

松江監督も「そういうグレーゾーンこそが面白い。撮影しているときも、カメラが入った途端、(表情や雰囲気が)がらっと変わる人が好き。普段のままではなく、カメラを意識して変わるその言葉に興味がある。『ゆきゆきて、進軍』の原一男監督はまさにそう」と頷きました。

また松江監督は「テレビは放送された時点で、過去に撮ったものが現在のものになる。そして、それを今週観たら、その人は一週間後も次の回を観る。つまり、その人の生活になるんです。それを3か月という時間をかけてやっていく。3か月って、その人の人生にかなりの時間、関わっていると思う。

もしかするとその間に恋人と別れているかもしれない」とテレビドラマの魅力を語り、森さんも「3か月の中で、ドラマと自分が重なっていく。毎週ドラマを観るのは、その人の生活に入り込んでいるということ」とドラマと日常の関係性について話しました。

イベントの途中には、森監督の代表作『A』『A2』でプロデューサーを務めた安岡卓治さんもトークに参加。
安岡さんが「撮影時の山田さんの心象と背景を共有する感覚で観ました。ある種のリアルとはまた違う、もうひとつのリアルがあるように思えた」という感想を話すと、松江監督は「僕も、山田君のどこまでが本当で、どこまでが嘘(演技)なのか分からない。山田孝之に騙されているんじゃないかと思う。ある種の人たらしなのかも。同じ言葉でも、前後を入れかえて編集すると、全然違って見える。そこに底知れなさを感じたし、俳優をドキュメンタリーで撮る面白さがあった。

特にこの『4時間35分ver.』は、山田孝之感が濃い。テレビは視聴者に疑問を持たせないような作りをするけど、映画の場合は、そこまで説明しなくてもいい。だから4時間半、山田君にどんどん惑わされる。芝居が本当に好きで、生きていること自体が芝居をしているみたいな人」と本作での山田さんの存在感を絶賛。


山田孝之が「俳優を10年間休みたい」と、大根仁監督に告げに行くシーンについては、松江監督は「大根監督の最新作『バクマン。』での山田君の演技は最高だった。だからこそ、大根さんからすれば、そんな『バクマン。』の撮影後に、(劇中で山下監督、山田さんが一緒に作った短編)『サイコロマン』を観せられたら、そりゃあ大根さんの怒りも分かりますよ」と言い、笑いを誘いました。

質疑応答では、実際に赤羽から今回の上映を観に来たという女性のお客さんの姿も。松江監督は「(赤羽から観に来たことを)山田君にも伝えておきます」と感謝を口にしていました。