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美術館関係者、アーティスト、アートプランナーと、三者三様の思いが交錯した『美術館を手玉にとった男』舞台挨拶

2015年10月17日(土) レポート

10月17日、『京都国際映画祭』特別上映部門『美術館を手玉にとった男』がTOHOシネマズ二条で上映されました。

全米20州、46の美術館で展示されていた作品の数々が、実は一人の男によって造られた贋作で、しかも全て無償で寄贈されたものだった…。
前代未聞の奇妙な事件を起こした男、マーク・ランディスの素顔を追うドキュメンタリーです。
監督はサム・カルマン、ジェニファー・グラウスマン。ランディスや騙された美術館関係者、FBI捜査官など、関連する人々や社会が持つ歪み、苦悩、そして良心が、ユーモラスかつ鋭く描かれています。

上映後には舞台挨拶が行われ、服部正さん、串野真也さん、おかけんたが登壇。浅越ゴエとともに作品についてトークを繰り広げました。

まずは服部正さんからご紹介を。
現在は大学教員で、もともとは美術館に20年勤められていた服部さん。
「騙される側の立場で(観ました)。美術館には長く勤めていました」と自己紹介されました。
シューズ・デザイナーの串野さんは『京都国際映画祭』のアート部門にも出品されており、現在、藤井大丸にて『Stairway to Heaven』と題した靴の展示を実施中です。「串野さんの作品は、レディ・ガガさんにも提供されているんですよ」とおかけんた。そして、けんたは、『京都国際映画祭』にはアートプランナーとして参加しています。ですが、けんたといえばやっぱり「ええ声」。浅越の要望で、アンプラグドでの「ええ声~!」を披露してもらいました。

けんたは自己紹介もそこそこに「この作品の主役である、マーク・ランディスに非常に共感しました」と感想を。
「私自身、アートプランナーという肩書がありますが、漫才師でもあります。そのことで、どこかアートの専門家の方に引け目を感じることも。
“私は芸術家ではない”というマークの発言に共感しました」と感銘を受けていました。

『美術館を手玉にとった男』は、名画の贋作を制作し、美術館に無償で寄贈するマーク・ランディスという男性を追ったドキュメンタリーです。
けんたは、「贋作を見ると腹が立ちます」とコレクターとしての意見も。「ただ、贋作がネットオークションに出ましたというようなニュースが出ると、(贋作が)減るどころか増えるんですよね。その現象も面白い。これもこの作品のテーマになると思います」と見解を述べました。

美術館側の立場として、服部さんのご意見もお伺いしました。
服部さんは、「美術館に勤めている身としては、マークのような人がいると本当に困ります。でも、その一方で、美術業界の人たちが結局は自分の立場を守るばっかりで、あの人のつらさとか、しんどさに向き合っていないなと思いました。そこがちょっと腹立たしいというか、そういうことを感じました」と率直なご感想を。
ただ、美術館側としては作品のような事件が起こると「普通に怒ります(笑)」とのことでした。

名だたる美術館の職員が次々と騙されたこの事件。
「贋作と分からないのが不思議」と服部さん。
「彼の場合は巧妙だったんですよね。その美術館が欲しそうなものを持ち寄ったりとか、サイズが小さいとか」と、マークがよく考えていたのでは?と推測されていました。

ご自身の作品が複製されたらどう思いますか?と、串野さんにはアーティストの立場としてのご意見を伺いました。
「僕の場合は、自分の作品が複製されると、ありがたいとうか、嬉しい気持ちは正直あると思いますね。そこにはある意味、贋作する価値があると、自分の存在もそこで認識されるというか」と、さきのおふたりとはまた異なるご感想を語られました。
一方で、服部さんと同じように、作品を観て美術館の無責任さに問題意識を持たれていました。

「贋作は出てきても、サインで判定できる人がだんだん少なくなっているんです。(画家と)同じ時代に生きた方がいらっしゃれば分かるんですけど…。あとはその方から聞いた知識とかでしか判断できなくなってくる。その辺のところがこれからどうなっていくのかなと思いました」と現状を愁うけんた。
続けて、本作を観て思い浮かんだのは「バンクシー」というグラフティ・アーティストだとも。バンクシーが美術館に勝手に自作を飾るというエピソードを紹介し、「あなたたちは路上で私たちがスプレーで描いたら落書きだと言うのに、美術館で観たら名作だと言うのか」というメッセージを発しているとも。
そして、主人公であるマークへ思いを寄せました。マークの贋作と、自身のモノマネ。そこに共通した思いを見たようです。
また、追っていくごとに変っていくマークの心中を代弁するかのような、詳細な解説もありました。

そして、服部さんからは、美術館としての仕事とは何か、アーティストとどう向き合うのか、そういった目線でのご意見もありました。

「アーティストは基本、模倣から入ると思うんです。先人の作品を見ながらなぞらえていって、それから先人を越えて行く。そういったところはどのアーティストもあると思う。ただ、マークはアーティストというより、やるべきことがあるという認識でしたね」と串野さん。ラストに向かって自分の居場所を見つけていく姿に「報われた感じ」とも話していました。

なお、服部さんの情報によれば、マークは今、自身のホームページを立ち上げ、写真を送るとそれをマークのタッチで描くという仕事をしているそうです。

「人間のあいまいな部分も描いた、本当に考えさせられる映画でした」と感慨深く話す浅越。最後に一言、お三方にご感想をいただきました。

服部さんは、「やりきれない思いを作品にぶつけていくという感じで、創作の原点だと思いました。精神疾患を抱える方とか、アートの方とか、いろんな方に観てもらいたいと思いました。
串野さんは、「アートに興味のない方にもこの作品をきっかけに観ていただいて、アート、映画など、たくさんのことに興味を持ってくださったら。いいきっかけになればと思います」。
けんたは、「『京都国際映画祭』は今年で2年目なんですが、『京都国際映画祭』では、アートと映画が融合した作品もどんどん紹介していきたいと思います。これからもよろしくお願いします」とPRしました。